高校生活の中で、環境の変化や人間関係に悩むことは決して珍しいことではありません。今回ご紹介するのは、高校2年生の夏に通信制高校への編入を決意したある生徒の保護者様の体験です。全日制高校から通信制への転校を経て、最終的に大学進学を果たすまでの過程には、多くの葛藤と選択がありました。この記事では、その体験を通じて、通信制高校のリアルな姿と可能性をお伝えいたします。通信制高校を選んだ背景――人間関係の壁と「留年」の現実お子さんは、はじめ一般的な全日制の高校に通っていました。1年生の時は通えていたものの、2年に進級してクラス替えがあったことで人間関係に変化が生じました。周囲との関係に悩むようになり、精神的に追い詰められていきました。眠れなくなるなどいわゆる“うつっぽい”状態になってしまい、登校もあまいできなくなりました。夏休み直前の三者面談では、担任から「このままでは出席日数が足りず、留年になる可能性が高い」と指摘されて通信制高校に進学することをすすめられました。そこでこのまま同じ環境に身を置き続けるのは難しいと判断し、保護者様とともに通信制高校への転校を考えるようになりました。8月に複数の通信制高校が集まる合同説明会に参加し、10校以上のブースをまわりながら情報収集を進めました。その中から最終的に2校ほどに候補を絞り、9月に「屋久島あおぞら高校 熊本キャンパス」への編入を決めました。「無理なく通えること」が第一条件――通信制高校選びの視点通信制高校のスタイルは多種多様です。全日型、週1~2日の登校型、リモート中心の自宅学習型など、学びのスタイルは学校によって違います。お子さんの周囲にも通信制に通っている友人がいましたが、「リモート授業が中心で、結局は家でゲームばかりしているよ」という話も耳に入りました。本人は「そういう生活にはしたくない」と強く思っていたようです。そうした中で選んだのが、通学型を採用している「屋久島あおぞら高校」でした。基本は通学が前提ですが、体調などに応じてリモートでの参加も可能です。また、文化祭や体育祭などの学校行事も行われており、他の生徒と関わる機会も多くあります。午後には選択授業があり、英語や音楽、メイクといった科目を自由に選ぶことができました。特徴的なのは、担任制ではなく一人ひとりに専属の先生がつく個別対応の仕組みです。学年全体では80名ほど在籍していましたが、実際に通学しているのは10人前後という印象だったと保護者は語ります。なお、お子さんは指定校推薦での大学進学を希望していたため、学校側の「推薦希望者は毎日通学」というルールに従い、体調が安定して以降は基本的に毎日登校していました。午前中はリモート授業、午後は選択授業に参加するというサイクルが日常となり、「自分がなりたい姿に近づくための場所」という学校の理念に沿った過ごし方ができるようになっていきました。通信制高校での実際の学びと進路――不安と成果のリアルあおぞら高校への入学に際しては、やはり不安も大きかったようです。特に保護者が心配していたのは、生徒の生活リズムでした。編入前は昼夜逆転の生活が続き、深夜にならないと眠れず、朝は起きられないという状態でした。それが学校に通う生活に戻せるのかという点が、一番の心配だったといいます。また、大学進学を目指していたことから、学習支援についても慎重に検討していました。あおぞら高校には「進学クラス」も設置されていますが、実際の内容は「放課後にオンライン塾の授業を受ける形式」だったため、費用面を含めて「それなら直接塾に通った方が良いのではないか」と考え、進学クラスの利用は見送りました。指定校推薦に関しても不安はありました。全国で1枠しかない大学もある上、本人が志望する大学は指定校リストに入っておらず、数Ⅲなどの履修条件を満たすためにも独自の勉強が必要となりました。結果として、生徒は自己推薦で受験する道を選びました。なお、他校との比較では「第一学院高校」も候補に挙がりましたが、ビルの一画で運営されており「学校らしさ」を感じにくかったこと、通学型でも定員が埋まっていたことから、最終的には選ばれませんでした。あおぞら高校に通い始めてからは、ギターという趣味を見つけ、体調面・精神面の安定が見られるようになりました。また、スクーリングとして屋久島での自然体験に参加し、全国から集まった生徒たちと交流するなど、普段の学びとは異なる経験もできました。本人も「楽しかった」と満足していた様子だったといいます。通信制高校を選ぶ前に知りたかったこと――保護者目線の気づき通信制高校を選ぶ上で、保護者として「もっと事前に知りたかった」と感じたのは、学校のリアルな日常です。たとえば、実際の出席率やイベント参加率、学内での人間関係の雰囲気など、パンフレットでは見えない情報こそが重要だといいます。あおぞら高校では、文化祭・体育祭といった行事も行われてはいましたが、参加は任意で、生徒によって温度差があるのが実情です。人前が苦手な生徒は後方に席を取るなどの工夫がされていましたが、実際の参加率や出席状況が事前に分かっていれば、より安心して選択できたのではないかと振り返ります。また、動画配信による一方通行型の授業が中心である点についても、思っていた以上に「ただ観ているだけ」という感覚が強く、レポート提出のためだけに興味のない授業にも参加しなければならないことを本人はよく嘆いていたそうです。「時間を有効に使えない」「もっと柔軟なカリキュラムならよかった」といった不満もありました。先生との連絡手段としては、専用アプリを通じてメッセージのやり取りができて、必要があれば電話での対応もしてもらえました。入学直後の1週間は、毎日先生から学校での様子が報告され、その後は徐々に頻度が減っていく形でした。保護者との関係も丁寧に築こうとする姿勢は感じられたとのことです。通信制高校は「もう一つの選択肢」ではなく「新しい道」お子さんは通信制高校への転校を通じて、自分のペースを取り戻し、九州産業大学へ進学。「もしあのまま全日制に固執していたら、きっと高校を辞めていた」と保護者は語ります。通信制高校は、何かをあきらめる場所ではなく、「別の道で自分らしく学び直す」ための選択肢です。通学のスタイル、先生との距離感、学び方、学校行事の有無、進学支援など、細部に目を向けることで、自分に合った学校に出会える可能性は高まります。何よりも大切なのは、「自分が安心して通えるかどうか」。その視点を大切にして選んだ学校で、この生徒は自分らしさを取り戻し、新たな進路へと歩みを進めることができました。