進学校でのつまずきと「もう一度やり直す」決意取材に応じてくれたのは、S高等学校ネットコースに在籍していた男子生徒の父親です。息子さんは2023年10月に入学し、2025年3月に退学。その後は高卒認定試験を受けながら、大学進学を目指して勉強を続けています。中学時代、息子さんは私立中学受験に挑戦し、見事に志望校に合格。ところが、中学1年生の春、新型コロナウイルスの感染拡大が起こり、学校生活が一変しました。「コロナの影響で授業や行事が制限され、友人関係や学校の雰囲気になじむのが難しかったようです。加えて進学校のカリキュラムについていけず、次第に不登校気味になりました」とお父様は語ります。高校進学後も状況は改善せず、高校1年生の前期が終わるころには出席日数が足りず留年が確定する見通しとなりました。そのとき、息子さんが自ら口にしたのが「学校をやめて高卒認定資格を取る」という選択でした。「当時は起立性調節障害の症状もあって、朝の登校がとにかくつらそうでした。無理に通学させても心身ともに限界が来ると思い、本人の意向を尊重しました」と振り返ります。通信制高校という新しい選択――S高を選んだ理由進路を考える上で、家庭が最初に意識したのは「無理なく通えること」でした。通学日数の少ない学校を探していたところ、見つけたのがS高等学校ネットコースでした。「他の通信制高校では週1回の通学が必要なところもありましたが、S高は年に2回だけのスクーリングで済む点が魅力でした。筑波での本校スクーリングもN高の沖縄スクーリングなどより行きやすく、費用面でも現実的でした」と話します。学費の負担が少なかったことも決め手の一つでした。「進学準備のために塾にも通わせたかったので、学費が抑えられることは大きかったです。S高はシステムがシンプルで、必要な分だけしっかり学べる印象がありました」また、担任の先生との面談では、家庭の事情に寄り添った柔軟な対応があったといいます。「妻と息子と3人で喫茶店で面談したのですが、全日制高校の担任の先生がわざわざ来てくださいました。『通信制に進んで力をつけた生徒もいますよ』と励ましてくださり、安心して進学できると思いました」通信制で見えてきた成長――昼夜逆転から「自分のペースの学び」へS高に進学後、息子さんの生活は大きく変化しました。「入学当初は昼夜逆転の生活でした。朝起きられないので、昼過ぎに起きて夜に課題に取り組む。最初は親として心配でしたが、次第に“勉強する時間”が確立されていったんです」とお父様は言います。通信制高校では、各教科ごとにレポートを提出し、スクーリングで単位認定を受ける仕組みです。息子さんはS高での単位修得を順調に進め、残るは物理の1科目のみという状況でした。「スクーリングは大阪の江坂の会場で3カ月に1回ほど、筑波では年1回の3泊の集中スクーリングがありました。本人は一人で参加していて、特に問題はなかったようです。学校の先生方のフォローも丁寧で、単位はスムーズに取れていました」一方で、通信制高校ならではの孤独もあったようです。「S高の中で新しい友達ができたわけではなく、遊ぶのは中学時代の友人ばかりでした。それでも、学校という枠にとらわれず、自分のペースで学べることは大きな安心感につながっていたと思います」ゲームに熱中していた時期もあったものの、次第に飽き、今では完全に封印。代わりに塾の勉強に集中するようになったそうです。学びの軸を自分でつくる――「高校の勉強より大学受験を見据えて」通信制での学びを続ける中で、息子さんには「勉強への意識の変化」が生まれました。「S高のレポート学習は基礎内容が中心で、本人にとっては簡単だったようです。『この時間を受験勉強に使いたい』と考えるようになり、S高を退学し、高卒認定資格の取得を目指すことにしました」お父様は当初、退学の決断に迷いがありましたが、息子さんの意志は固かったといいます。「『高認は簡単だから大丈夫』と本人が言い切ったんです。以前の息子ならそんな自信は持てなかった。通信制で自分のペースをつかんだことで、“やればできる”という感覚を得たのだと思います」現在は昼過ぎに塾へ行き、夜10時頃まで勉強。その後は自室で大学受験の自主学習に取り組むという生活を送っています。起立性調節障害の症状も落ち着き、生活リズムは夜型ながら安定しているとのこと。「高校の課題に縛られず、自分のやりたい勉強に時間を使えるのは大きい。後悔はないです」とお父様は語ります。保護者として見た通信制の現実――「向き不向き」と「成長の実感」通信制高校に進学して良かった点について、お父様はこう語ります。「息子のように朝がつらいタイプでも、自分のリズムで学べるのはありがたかったです。昼夜逆転していても、本人が自発的に勉強していればそれでいい。」一方で、通信制ならではの課題も感じたといいます。「勉強が軌道に乗ってきたとき、学習内容の難易度に物足りなさを感じるようになりました。もし、もっと自分のレベルに合ったカリキュラムを選べる仕組みがあれば、さらに意欲的に取り組めたと思います」また、保護者との関わりについては「学校との接点は少なめだった」と話します。「担任の先生は親身でしたが、通学機会が少ない分、家庭と学校が密に連携する機会はあまりありませんでした。息子が自主的に動けるようになったからこそ成り立ったスタイルだと思います」それでもお父様は、通信制高校を「子どもにとっての新しい選択肢」として高く評価しています。「不登校や体調面の理由で全日制が合わない子にとって、通信制は“もう一度やり直せる場”です。息子を見ていても、立ち止まった時間が無駄ではなかったと感じます」未来に向けて――「好きな時間に学び、夢へ進む」現在、息子さんは国立大学の理系・工学部を目指して受験勉強に励んでいます。S高で身につけた自律的な学習スタイルを活かし、今では毎日10時間近く勉強に取り組むこともあるそうです。そして、同じように子どもの進路に悩む保護者へ、次のようなメッセージを伝えます。「不登校の学生が高校卒業の資格を得られるので、通信制高校は選択肢としていいことだと思う。通学に縛られることもないため選択肢としてありです。息子と同じように起立性調節障害の人には、通信制高校等の選択を通じて子供が少しずつできることをやっていけたらいいと思います。」まとめ:通信制高校は「再スタートの場」息子さんが歩んできた2年間は、試行錯誤の連続でした。しかし、その中で得たのは「自分のペースを信じて進む力」でした。起立性調節障害という制約がありながらも、S高での経験を通じて自分の生活リズムを見つけ、学ぶ意欲を取り戻したことは、今後の人生において大きな財産となるでしょう。お父様は最後にこう締めくくります。「不登校や体調の問題で悩んでいる家庭は多いと思います。でも、道はいくつもあります。通信制高校は、その中の一つとして十分価値のある選択肢です」――通信制高校での学びは、子どもが「自分の時間で生きる力」を身につけるための第一歩なのかもしれません。