不安障害で通学が困難になった彼女は、一ツ葉高校に転入し、自分のペースで学び直しました。オンライン授業で高校を卒業し、建築への夢を見つけ、日本工業大学に進学。通信制高校での経験が、自信と再出発の力につながりました。不安障害の発症東京都立の全日制高校に通っていた彼女は、ブラスバンド部に所属し充実した学校生活を送っていました。しかし、高校生活の途中で突然、通学ができなくなってしまいます。原因は「不安障害」。電車に乗ると体がどうしてもしんどくなってしまいます。次第に登校すること自体がつらくなり、体が拒絶反応を起こすようになりました。心療内科での診断を受けた時、彼女もご家族もほっとしたと同時に、「これからどうすればいいのか」という不安が大きくなったといいます。症状が落ち着いてきても、電車に乗ることへの恐怖感はなかなか消えませんでした。高校の先生に相談しても、「通えないなら退学しかないよね」というような冷たい反応を受け、学校側の対応にショックを受けたそうです。「病気で通えなくなっただけなのに、努力の余地もなく退学という選択しか提示されなかった」と、お父さまは当時を振り返ります。本人も転校することが決まった時期は、ずっと泣いていました。通信制高校という選択肢との出会い進路を考え直すなかで、ご家族は「通学せずに単位を取得できる通信制高校」を探し始めました。体調的にスクーリングに通うのも難しいため、オンラインで完結できる学校を中心に検討したといいます。候補に挙がったのは、代々木に校舎を構える一ツ葉高校と、当時話題になっていたN高等学校の2校でした。最終的に一ツ葉高校を選んだ理由は、学校の雰囲気と職員の対応に安心感を覚えたからでした。保護者面談の際に、事務の方と直接話をしたお父さま・お母さまが「この学校なら安心して任せられる」と感じたことが決め手になったといいます。また、もし将来的に通学ができるようになったときにも、アクセスの良い場所に校舎があるという点も大きな魅力でした。「本人は高校を辞めることに強い抵抗を感じていました。履歴書に残るものだからこそ、『高校卒業』という形だけは残してあげたいという思いがありました」とお父さまは語ります。一ツ葉高校での生活彼女は2022年4月、高校3年生のタイミングで一ツ葉高校に転入しました。学びの中心はオンライン授業です。パソコンを使って自宅から授業に参加し、レポートを提出する形式でした。通学しなくても単位が取得できるため、体調に合わせて自分のペースで学ぶことができたといいます。自宅では、在宅勤務をしていたお父さまと昼食を一緒にとるのが日課になっていました。「今日はどんな授業があるの?」と会話をしながら、少しずつ穏やかな日常を取り戻していったといいます。保護者はあまり勉強の進捗を聞かないように心がけたそうです。「あまり聞くとプレッシャーになるかなと思って、そっと見守っていました」とお父さま。一ツ葉高校では先生との面談も定期的に行われており、オンラインでのサポート体制も整っていました。通学が難しい生徒にも、きちんと寄り添ってくれる学校だったといいます。ただ、オンライン中心のため、同級生とのつながりはほとんどなく、「同級生」という存在はいなかったそうです。卒業アルバムはあったものの、すべてオンラインで他生徒と交流がなかったため知っている生徒はいませんでした。「一ツ葉高校は、どちらかといえば『高校卒業』をサポートしてくれる学校という印象でした。大学進学については自分で準備する必要がありましたが、先生方はいつも優しく話を聞いてくれました」と振り返ります。建築への興味と進学への道高校生活の後半、彼女は建築に強い興味を持つようになりました。通信制高校で自由な時間が増えたことで、博物館や建築物を見に行くようになり、次第に「自分も建築を学びたい」という気持ちが強くなっていきました。そのなかで都内の移動のために電車を使うようになりました。はじめは電車に乗ることに恐怖感がありましたが、しだいに慣れていき、卒業するころには普通に電車に乗れるようになりました。ただ、大学受験は順風満帆ではありませんでした。不安障害の影響で勉強のペースを取り戻すまでに時間がかかり、思うように結果を出せなかったのです。高校卒業後は一年間、予備学校に通って浪人生活を送りました。しかし、以前ほど集中力が続かず、「頭がうまく回らない」と本人も感じていたそうです。それでもあきらめずに努力を続け、最終的に日本工業大学の建築学科に合格しました。第一志望ではありませんでしたが建築を学べる環境に行けたことが嬉しかったそうです。将来的には大学院に進学し、一級建築士の資格を取得することを目標にしています。一人暮らしと新しい生活今では、大学への通学も問題なくできています。通信制高校では時間の使い方が自由であったため、自分の好きなことに向き合う時間が精神的な強さにつながったと感じているそうです。通信制高校で得たもの一ツ葉高校で過ごした時間は、お父さまにとって特別な意味を持っています。「当時は不安もありましたし、通信制高校に対して“得体の知れない学校”という印象も正直ありました。でも、実際に通ってみて、こういう形の高校があって本当によかったと思います」と語ります。通学ができない状況でも、自分のペースで学びを続けられたこと。高校卒業という区切りを無事に迎えられたこと。どちらも本人にとって大きな自信となりました。「もし通信制高校という選択肢がなかったら、きっと高校を卒業できなかったと思います。理由がなんであれ、高校を卒業できないというのは理不尽だと思うんです。学びたい意欲があるのに、それを形にできないのは悲しいことだから」とお父さまは言います。未来へのメッセージ今、彼女は大学で建築を学びながら、自分の夢に向かって日々努力しています。不安障害と向き合いながら、自分のペースで回復し、再び夢を描けるようになった彼女の姿は、同じように悩む人たちにとって大きな励ましとなるに違いありません。「たとえ普通の高校に通えなくても、夢をあきらめる必要はないと思います。通信制高校に通ったからこそ、自分の時間をどう使うかを考えるようになったし、普通の学校では体験できなかったこともたくさんありました」とお父さまは語ります。通信制高校は「逃げ場」ではなく、「新しい学びの形」です。彼女のように、体調や環境の制約を抱えながらも、自分の夢に向かって一歩ずつ前進していく生徒たちがいることが、その証といえるでしょう。