進学校を辞めて通信制高校を選んだ理由:自分のペースで「医学部受験」に専念するため
彼は中学3年生の時に高校受験を経験し、地元の進学校へ入学しました。多くの受験生が憧れる環境でしたが、実際に通い始めると、彼の中に一つの違和感が生じます。それは「授業の進度」でした。
学校の授業スピードが彼にとってはゆっくりに感じられ、決められたカリキュラムに沿って進むよりも、自分のペースで学習を進めるほうが効率的であると考えるようになったのです。この「学習ペースの確保」こそが、彼が通信制高校への転入を決意した最大の理由でした。
なぜ「日本航空高等学校」だったのか
転入にあたって、彼は複数の通信制高校を検討しました。最終的に日本航空高等学校を選んだのは、自身の学習スタイルに最も合っていたからです。同校の本校は山梨県にありますが、基本的な授業はオンラインで完結します。自宅からほとんど出ることなく高校卒業資格を取得できるシステムは、受験勉強に全ての時間を注ぎたい彼にとって、大きな魅力でした。
入学前の不安と戸惑い
全日制の進学校から通信制へと環境を大きく変えるにあたって、不安が全くなかったわけではありません。当時の彼は、通信制高校の具体的な仕組み——レポートの提出方法、スクーリング(面接指導)の頻度、単位認定試験の流れなど——について、十分な知識を持っていませんでした。未知のシステムに対して「本当にこれで大丈夫なのだろうか」という戸惑いを抱えながらのスタートだったといいます。
通信制高校でのリアルな生活。10章を超えるレポートと「独学」の日常
実際に通信制高校での生活が始まると、そこには全日制とは全く異なる日常が待っていました。
レポート学習の実態と負担
彼が選んだコースはオンライン中心であったため、レポートの提出もパソコンから気軽に行えるものでした。しかし、その「量」については注意が必要だと彼は振り返ります。例えば数学であれば10章以上に及ぶ課題があり、全科目合わせるとかなりのボリュームになります。
「スクーリングが少ない分、レポートの量が多いのかもしれない」と彼は分析しています。授業がない自習形式だからこそ、人によってはこのレポートの山をやりきれず、負担に感じてしまう可能性があるのが実情です。彼はこれを「早めに終わらせて自分の勉強時間を確保する」という戦略で乗り切りましたが、計画性のないまま進めると、大きな壁に直面することになります。
人間関係とスクーリングの割り切り
学校生活における人間関係についても、彼は非常にドライなスタンスを貫きました。
友人関係: 校内に友人は一人もいなかった。
行事: 運動会などの行事は開催されていたが、任意参加であったため、ほとんど参加しなかった。
先生との関わり: 必要最低限の事務的な連絡以外、先生との深い交流はなかった。
スクーリングについても、数ヶ月に一度テストを受けるために学校へ行く程度で、ほとんどありませんでした。旅行ついでに山梨の本校を見学したことはありましたが、基本的には「学校は卒業資格を得るための場所」と割り切り、孤独の中で淡々と医学部受験に向けた準備を進めていたのです。
通信制高校のメリットとして、彼は「人間関係の煩わしさがないこと」を挙げています。自分の時間を最大限に確保したい人や、集団生活にストレスを感じる人にとっては、最適な環境であるといえます。
塾に頼らない医学部受験対策。代ゼミ自習室と「武田塾ルート」の活用
医学部合格を目指す多くの受験生が予備校に通い詰める中、彼の受験勉強は基本的に「独学」でした。
通信制高校の授業は役立ったのか
率直に言って、通信制高校の授業が医学部受験に直接役立つことはなかったと彼は語ります。高校の授業はあくまで高卒資格を得るためのものであり、難関大学の入試レベルをカバーするものではありません。
そこで彼が頼りにしたのは、YouTubeや「武田塾」などの情報を通じて紹介されている参考書ルートでした。
どの参考書をどの順番で解くべきか。
今の自分に足りない知識は何か。 自分自身で膨大な情報の中から参考書を選別し、取捨選択を繰り返しながら学習を進めました。
予備校(代々木ゼミナール)の利用方法
浪人期間中、彼は代々木ゼミナールに籍を置いていました。当初は集団授業や映像授業も受けていましたが、わずか1ヶ月で「自分にはあまり意味がない」と判断し、授業を受けるのをやめました。以降は、予備校の「自習室」だけを利用するスタイルに変更しました。
カリキュラム設定の困難さ
自学自習において最も苦労したのは、学習スケジュールの管理です。 「8月中にこの参考書を終わらせる」といったざっくりとした計画は立てていましたが、少しでも遅れると次の参考書に影響が出ます。結局、基礎固めが長引き、過去問(赤本)に取り組み始めたのは12月という遅い時期になってしまいました。
「自分で進度を決めるのは、想像以上に難しい」 彼はそう振り返ります。彼は結果として医学部に合格しましたが、こうした自己管理を完遂できる人は決して多くない、という実感を抱いています。
埼玉医科大学への逆転合格。補欠62番からの奇跡と「医学部受験の厳しさ」
医学部受験は、並大抵の努力では届かない厳しい世界です。彼は現役時代、日本大学医学部にわずか20点差ほどで不合格となる苦い経験をしました。
42万円の受験費用と7校の出願
医学部受験には多額の費用がかかります。彼は私立大学に7日間出願し、受験料だけで約42万円を費やしました。医学部受験生の間では10校以上出願することも珍しくありませんが、それでも精神的・経済的な負担は相当なものです。
補欠62番という崖っぷち
結果として、合格を手にしたのは埼玉医科大学のみでした。それも、一次試験を突破し二次面接を受けた後の結果は「補欠合格」。順位は62番目でした。 「62番では、さすがに繰り上がりは回ってこないだろう」 そう確信した彼は、3月中は2浪目を覚悟し、重い気持ちで来年度の準備を始めていました。しかし、3月の末になって、奇跡的に補欠の繰り上がり合格の連絡が入ったのです。
通信制高校と大学生活の決定的な違い。自由と規律のバランス
晴れて医学部生となった彼は、現在、通信制高校時代とは正反対の生活を送っています。
生活リズムの劇的な変化
通信制高校時代は「学校に行く」という概念自体がなかったため、どうしても夜型になったり、昼夜逆転したりと生活リズムが崩れがちでした。 対して大学では、毎日午前中から夕方まで講義があり、強制的に規則正しい生活を送ることになります。
「大学生活の方が楽」という意外な本音
医学部の試験は過酷で、テスト前は寝る間も惜しんで勉強する必要があります。「テスト前の一週間は、大学受験の時よりも辛い」と言うほどですが、それでも彼は「今の方が楽だ」と感じています。
その理由は「仲間」と「オンオフの切り替え」にあります。
通信制時代: 先が見えない中、一人で数年間にわたり勉強し続ける孤独な戦い。
大学生活: 辛い試験も同じ学部の友人と励まし合える。長期休みは勉強せず遊びに行ける。
孤独の中で自分を律し続ける受験期に比べ、目的を共にする友人がいる今の環境の方が、精神的な負担は少ないのです。
同じ進路を目指す後輩へのメッセージ:自律の難しさを知ってほしい
最後に、彼は通信制高校から難関大学、特に医学部を目指そうとしている後輩たちへ、自身の経験に基づいたメッセージを贈ってくれました。
彼は自身の選択に満足しており、学費の問題はありましたが、自分の時間を確保できたことや人間関係のストレスがなかったことは大きなメリットだったと考えています。しかし、安易に「全日制を辞めて受験に専念すること」は勧められないと強調します。
「大学受験は、大学の定期テストと違って、何年も継続して勉強し続けなければなりません。1日5時間以上といった学習を、何日も何ヶ月も欠かさず継続することが大切です。通信制高校では、学校のカリキュラムが受験を支えてくれるわけではないため、全て自分で決めていかなければなりません。僕も自分でカリキュラムを組んで進めましたが、正直に言って本当にしんどかったです。
だからこそ、自分を導いてくれる存在、相談できる人を絶対に身近に作ってください。全日制高校を辞めてまで大学受験を目指すのは相当な覚悟が必要です。自分一人で全てをコントロールしようとせず、適切な指導者を見つけることが、成功への一番の近道だと思います。」
通信制高校選びで失敗しないためのチェックリスト
通信制高校への転入を検討している方は、以下の項目を自分に照らし合わせて確認してみてください。
学校の授業がなくても、自分で参考書を読み進める「自学自習」の習慣があるか
大学入試までの長期的なスケジュールを、自分で逆算して立てられるか
友人や先生との交流がなくても、精神的な健康を維持できるか
10章以上に及ぶような大量のレポート課題を、期限内にこなす計画性があるか
自宅学習で崩れがちな「生活リズム」を自分でコントロールできるか
わからない問題が出てきた時に、質問できる外部の環境(塾やオンライン家庭教師など)を確保しているか
「高卒資格を取ること」と「大学受験対策」を切り離して考えられているか

