1. 通信制高校を選んだ理由と二度の転入:ネットコースから「紙媒体」の学校へ
彼女が通信制高校という選択肢を選んだ背景には、体調の変化と環境のミスマッチがありました。もともとは全日制高校に通っていましたが、ある時期から理由が分からないまま学校へ行くことが難しくなってしまいました。しかし、「大学進学」という目標を諦めたくないという強い思いから、彼女は高校1年生の9月に転校を決意しました。
最初に選んだのは、ICTを活用した最先端の学習環境で知られるN高等学校(ネットコース)でした。
N高ネットコースでの挫折と、入院生活での誤算
転入当初、彼女は順調に学習を進めていました。自分のペースで進められるネット学習は、当時の彼女にとって最適解に見えたのです。しかし、「通学することがほとんどない」という環境は、他人との関わりを極端に減らしていくことになります。
さらに追い打ちをかけたのが、家庭環境の悪化とそれに伴う入院でした。全日制時代から続く不登校の影響もあり、心身のバランスを崩してしまった彼女は病院での生活を余儀なくされます。ここで大きな問題となったのが、「インターネット環境」でした。
入院先の病院はネット環境が非常に悪く、オンラインでの学習がメインであるN高のカリキュラムをこなすことが物理的に困難になったのです。「ネットコース」という強みが、彼女の置かれていた状況では、大きな壁になってしまいました。
翔洋学園高等学校との出会い
そこで彼女は、二度目の転入を検討します。条件は「ネットに頼らず、紙媒体でも学習が進められること」でした。中学時代の先生に相談したところ、中学校側と連携を取っていた「翔洋学園高等学校 日立本校」を勧められました。
「他の高校は検討しませんでした。先生の言葉を信じて決めました」と彼女は振り返ります。こうして高校2年生の4月、彼女は自分にとって三校目となる学校へと足を踏み入れました。
2. 翔洋学園高等学校でのリアルな生活:週1〜2回の登校と「先生」との深い絆
N高のようなフルリモートに近い形とは異なり、翔洋学園高等学校(日立本校)での生活は、週に1、2回程度学校へ通うスタイルが中心でした。
通学への不安と、唯一無二の友人
入学前、彼女が最も不安に感じていたのは「人間関係」でした。「ネットコースと違って通学が必要になる。そこで友達ができるだろうか」という悩みは、一度不登校を経験した彼女にとって切実なものでした。
結果として、在学中にできた友達はたった一人でした。しかし、彼女はその一人との関係、そして学校の雰囲気を「とても過ごしやすかった」と語ります。無理に大勢と群れる必要はなく、自分のペースでいられる場所。それが彼女にとっての救いとなりました。
独自のスクーリングシステム
翔洋学園高等学校のスクーリング(対面授業)は非常に効率的で柔軟なものでした。
先生の予定表: 「この日はこの先生が学校にいる」というスケジュール表が配布されます。
自由な登校: 自分が単位を取得する科目の先生がいる時間帯を選び、自分の都合に合わせて登校します。
集中学習: 彼女の場合、4月頃にほぼ毎日学校へ通い詰め、1年分のスクーリングをすべて終わらせてしまうというスタイルをとっていました。
スクーリングの時間は、主にレポート作成を進める時間として活用され、先生は生徒の質問に答える役割を担っていました。テストもレポートの内容に基づいたもので、難易度は高くなかったため安心して受けられました。
卒業後も続く、先生による手厚いサポート
彼女がこの学校を選んで最もよかったと感じているのは、教職員の方々の圧倒的な面倒見の良さです。
「先生が友達を紹介してくれたり、スクーリングがない日でも学校へ行けば話を聞いてくれました。私の状況をすべて把握した上で、進路に合わせた情報をくれたんです」
先生との絆は卒業後も続いています。大学生活で壁にぶつかったとき、彼女は今でも高校の先生に電話をしたり、実際に学校を訪れて相談に乗ってもらったりしています。「家庭の外にも居場所ができた」という実感は、彼女にとって大きな心の支えとなっています。
3. 大学受験の壁と苦労:通信制高校の「学習内容」の限界
通信制高校での生活は穏やかで充実していましたが、いざ「大学進学」を目指すとなると、そこには困難が立ちはだかりました。
レポート学習だけでは足りない現実
通信制高校のメインカリキュラムは「レポート(添削指導)」です。これはあくまで高校卒業資格を得るための基礎的な内容であり、大学入試、特に一般受験に対応できるレベルの学力を身につけるには不十分でした。
「学校での学習だけでは受験のための勉強をすることができず、塾を併用する必要がありました。受験対策を学校にすべて求めている人には、正直合わないかもしれません。」
彼女自身も、本格的な受験対策のために高校3年生から塾に通い始めました。
総合型選抜(旧AO入試)への挑戦
彼女が選んだのは、一般受験ではなく「総合型選抜」でした。ここで、高校の先生たちが再び大きな力となってくれます。
担任ではない国語の先生が小論文を指導。
面接対策のために何度も時間を確保。
「この日に対策をしよう」と約束し、マンツーマンでの手厚い指導。
結果として、彼女は見事に常磐大学 人間科学部 教育学科への合格を勝ち取りました。自宅から通える範囲で、教師になりたいという夢を叶えられる場所を選んだのです。
4. 進学後のギャップ:大学生活という「新たな試練」
念願の大学生活が始まりましたが、通信制高校との環境の変化に、彼女は再び苦労することになります。
「自由」から「拘束」への適応
通信制高校時代、特に3年生の時は4月にスクーリングを終わらせていたため、その後はゆったりとした時間を過ごしていました。しかし、大学1年生になると打って変わって毎日講義が詰まっています。 「毎日大学へ行くという生活に慣れるのが、本当に大変でした」と彼女は言います。
また、人間関係をゼロから構築し直す必要がある点も大きなプレッシャーとなりました。彼女は現在、読書会を開くなどして少しずつ自分のコミュニティを広げています。
学習内容の難易度
もう一つの壁は、学問としての難易度です。 「通信制高校の授業は、大学受験やその後の学問にはあまり役に立ちませんでした。教育学科の内容は専門的で、教員免許を取るための勉強は、通信制の基礎知識だけではかなり厳しいと感じる場面が多いです」
これは、通信制高校から大学へ進学する多くの生徒が直面する現実かもしれません。
5. 新たな目標:教育から「福祉」の道へ
大学で教育学を学ぶ中で、彼女の心境に変化が訪れました。
現場で感じた違和感
小学校の教育現場を実際に見た際、「自分には向いていないかもしれない」という直感を得ました。 「一人の教員が、あまりにも多くの子供たちを一度に見なければならない。一人ひとりと丁寧に関わりたいと思っても、物理的にそれができないもどかしさを感じました」
スクールソーシャルワーカーを目指して
不登校問題を研究する中で、彼女は「不登校は福祉の問題と切り離せない」という確信に至ります。 「教育そのものよりも、福祉の実践的な立場から、子供たちを支えたい」
そう決意した彼女は、現在、社会福祉士の資格取得を目指し、専門学校への進学を準備しています。将来は、学校現場で福祉の専門家として活動する「スクールソーシャルワーカー」を目指しています。
通信制高校選びで失敗しないためのチェックリスト
彼女の体験から、通信制高校を選ぶ際、あるいは転入する際に確認すべきポイントをまとめました。
自分の体調やメンタルに合わせた「通学頻度」を選べるか
ネット学習がメインの場合、通信環境(入院などの可能性も含む)に左右されないか
紙媒体での学習(テキスト・レポート)の選択肢があるか
大学進学を目指す場合、外部の塾を利用する時間的・経済的余裕があるか
先生が「学習面」だけでなく「生活・メンタル面」でどの程度関わってくれるか
卒業後も相談できるような、オープンな校風であるか
自分の進路(総合型選抜など)に対して、個別の対策を行ってくれるか

